Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

結局、彼の幸せを邪魔してるのは私なんだ。
私さえ身を引けば、愛し合う2人は結ばれる。

じわりと広がっていく胸の痛みに無言で耐えていると、「わかった」と静かな声が言った。

「ここへはしばらく帰ってこないことにする」

気遣いに満ちた視線も台詞も、苦しみを増すだけだった。

泣きたくなった。
お前なんていらないんだと、出て行けと言われた方が、いっそ楽だった。

優しさを愛だと勘違いして、ずっと独り相撲を取ってたなんて。

あぁバカみたい。
きっとさっきのキスだって、大した意味なんてないんだろう。
高橋さん(彼女)以外とのキスなんて――

漏れそうになった自嘲気味の嗤いを誤魔化すように首を振り、口を開く。

「いえ、出ていくなら私の方が……ここはクロードさんのおうちですし」

「それはダメだ」
「え?」

「悪いが、事件が解決するまでは、このままここで暮らしてくれ。セキュリティがしっかりしてるから。自分が“唯一の目撃者”だという事実を甘く見ない方がいい」

打って変わって険しい顔で反対され、え、と瞬く。
刑事さんたちみたいに、真犯人が私を狙うかもって考えてるの?
15年も経っているのに?

まぁそりゃ……富田も実際殺されてるわけだし、15年の時を経て、事件が再び動き出したのは間違いないけど。

「わかり、ました」

答えつつ、頭の片隅で考える。

どうして()、なのかな?

どうして今まで何も行動しなかったのに、突然――と、頭の中で渦巻くもろもろの疑問をぶつけたい思いは大いにあったものの、結局できなかった。
知っていたとしても、「今はまだ言えない」って返ってくるのがオチだろうから。

それでも、パズルのピースがまた1つ、あるべき場所へパチリとはまったのは間違いない。

彼がどうして外で働くなとか、夜の外出にはタクシーを使えとか、口うるさく言ってきたのか。

守ろうとしてくれたんだよね、真犯人から。

私への愛情でも、束縛でもなく。
ただ、私の安全のため……

< 229 / 402 >

この作品をシェア

pagetop