Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「じゃあ、俺はもう行くから」
隣で立ち上がる気配がして、ハッと我に返った。
「え、こんな時間から出ていくんですか? 別に明日でも……」
滲んだ目元をさっと拭って見上げた先で、彼が眉を下げて苦笑する。
「いや、決心が鈍るといけないだろ」
決心?
あぁ、私の気が変わらないうちにってこと?
「そう、ですか。わかりました」
「外に出るときは十分気を付けて。何か不安に思うことがあったら、いつでも連絡してくれ。真夜中でも構わないから。いいな?」
真摯な眼差しで言った彼にいつも通り髪を撫でられ、きゅっと胸が切ない音を立てた。
「……はい、ありがとうございます」
大きくて温かくて、優しい手――どうしてだろう。学くんの手に触れた時よりずっと、懐かしい気持ちがするなんて。
変だよね、どうしてこんな時に、あの手を思い出すの?
――茉莉ちゃん。
――君が笑ってくれたら、僕も嬉しいよ。
おかしいでしょ、あれは学くんなのに。
ぼんやりと考えるうちに、その手は離れていく。まるで名残を惜しむように、ゆっくりと――なんてね、私も大概妄想が激しいな。
「…………」
涙のヴェールに覆われた視界を上げる頃には、部屋には誰もいなくなっていた。
◇◇◇◇
『真犯人が富田の他にいるんじゃないか、って話は、15年前も出てたよね?』
『うん出てた出てた。ワイドショーで見た記憶がある。でもまさか、富田が殺されるなんて……』
二分割されたノートパソコンの画面に映った知依ちゃんと香ちゃん、2人の意見に耳を傾けながら、私は缶チューハイを片手に、ポテトチップスをつまんだ。