Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
あぁよかった。さっきまでお先真っ暗、って気持ちだったのに、ちょっとだけ元気が出てきたかも。
持つべきものは頼りになる友達だよね、と私が知依ちゃんを拝んでいたら、画面の向こうで微かにパタンと音が聞こえた。
『あ、明良さん帰って来たみたい。じゃ、茉莉花ちゃん、面接の件は一度人事に話してみるから。また連絡するね』
慌ただしく笑顔で手を振って、プツリと通信が切れた。
『……「帰って来た」って言ってたね』
「あ、私も思った」
香ちゃんオンリーになった画面へ、私は苦笑を向ける。
たぶん、知依ちゃんはもともと明良さんの部屋にいたんだろう。
バーチャル背景だったから、ちっとも気づかなかった。
「もう同棲してるの? あの2人って」
『さぁ、この前までは「なかなかプロポーズしてくれない」って言ってた気がするけどねぇ』
「ふふ、確かに」
バレンタインは手作りチョコを贈るんだとか。
パーティーの時だってラブラブだったもんね。いいなぁ順調そうで。
『あたしも続きたいなぁ』
んん?
ボソッとポッキーの咀嚼音に紛れたつぶやき、私は聞き逃さなかったよ。
「なになに、どういうこと……って、そうそう、聞こうと思ってたの。香ちゃん、チョコ贈る相手、できたんだよね?」
一緒にチョコを買いに行かないか、って誘われた時にあれって感じたんだ。
あげるなら本命一択、昔からそんな感じで、義理チョコとか友チョコとか、買う人じゃなかったから。
「一体いつの間に?」
揶揄うように聞くと、頬を染めた彼女が肩をすくめる。
『付き合ってるわけじゃないって。ただ、久しぶりに好きだなって思える人ができたからさ……』
「え、え、誰? どんな人?」
『んー……茉莉花も知ってる人?』
え、って思わず手の中の缶を握りつぶしそうになってしまった。