Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
突然の訪問、しかも出かける所へ押しかけられて驚いたと思うのに、桜木さんは快く私を家に招き入れてくれた。
「本っ当に申し訳ありません! お約束もせずにいきなり押しかけてきたりして……」
庭に面した日当たりのいいリビングで手土産のお菓子を渡し、私はただひたすら平謝りする。
「いいのよ、子どもたちはみんな独立してしまったし、仕事は数年前に退職して、時間だけはあるんだから」
鷹揚に笑った彼女は私にソファを勧め、紅茶を出してくれた。
全然詳しくないけれど、これは好きだな。すごくいい香り。
紅茶の癒し効果のおかげかホッと一息ついた私は、「ほんとにすみません」ともう一度謝る。
「お出かけの予定だったのでは?」
「平気平気。買い物なんていつでも行けるわ」
親しみやすい笑顔は、白衣の天使ってイメージにぴったり。
彼女なら、私の疑問にも答えてくれそう。
期待に胸を膨らませる私に応えるように、向かい側に座った彼女が視線を上げた。
「それで……その手紙、中を読んだのね? だからわざわざ訪ねてきてくれたんでしょう?」
「はい、読ませていただきました。事件について、会って話したいことがある、とか」
桜木さんは頷き、わずかに口ごもる。
「どう書いていいのか……書きづらいことだったから、悩んでね。それで、顔を見ながらお話した方がいいだろうと思ったのよ」
書きづらいこと……?