Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

「お母様は何もおっしゃってなかった?」

「やっぱり母は桜木さんに連絡したんですね? あの、実は数年前に亡くなりまして」

私が告げると、「まぁ」と桜木さんは絶句する。
「それは……ごめんなさい。辛いことを聞いてしまったわ」

「いえっ、大丈夫です」

「じゃあお母様は何も言わずに亡くなってしまったの?」
「はい。この手紙もつい先日、偶然見つけて」

「……そうだったのね」

深く吐息をついてから、彼女は私と視線を合わせた。

「えぇ、晴美さん――あなたのお母様とは会いました。手紙を出して、1か月後くらいかしら。病院の方へ訪ねてこられて」

「え、病院まで押しかけたんですか? それは……申し訳ありません。ご迷惑を……」
私よりツワモノだな、と肩を縮こまらせる私に、「いいのいいの、電話番号を書き忘れた私がいけないのよ。気にしないで」と桜木さんは微笑み――ふと、真顔に戻った。

「そこでお話ししたわ。私の犯した……()について」

「つ、罪?」

聞き返す私から逃れるように、揺れながら逸れていく視線。
私はごくりと息を呑み、彼女の口元を凝視した。


「……患者さんの情報を、外部に漏らしてしまったのよ。お金と引き換えに」

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