Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

「え」

お金と、引き換え?
言葉を失う私を肯定するように彼女は強く何度も頷き、膝の上で落ち着かなげに指を組み変えた。

「わかってたわ。いけないことだって、わかってたけど……。宮原さんが殺されたあの事件の、半年くらい前かしら。夫の会社の、役員だった人に頼まれたの。協力してくれないかって。あの頃はこの家を買ったばかりだったし、今彼が仕事を失ったらどうしようって……断れなかった。そんな大きな意味があるなんて思わなかったから、つい……。宮原さんの事件を知った時も、最初は半グレのコが容疑者だって言うし、全然関係ないと思ってた。でも、他に犯人がいるんじゃないか、って言う報道を耳にして、もしかしたら、私が漏らしたあの情報のせいなんじゃないかって、関係があるんじゃないかって思ったら、もう怖くて怖くて……っ」

「桜木さん、落ち着いてくださいっ大丈夫ですか?」

駆け寄って背中をさする。
小刻みに震える身体からは、恐怖が感じ取れた。

きっとこれまでも相当悩んできたんだろう。
彼女が漏らした情報っていうのは、一体……?

「ごめ、ごめんなさい。ちょっと、興奮してしまって……情けないわね。もう大丈夫よ」

頷く彼女へ紅茶のコップを渡し、飲んでもらう。
落ち着いたみたいだな、と元のソファへ戻った私は、申し訳ないと思いつつもう一度質問を重ねた。

「すみません、ちょっとわかりにくかったのですが、桜木さんが漏らした情報、というのは父に関するものだったんですか? つまり、父が患者だった、ということでしょうか」

病気らしい病気なんてしたことない人だったけど、と思いながら尋ねると、彼女はすぐに首を横に振った。

「最初に聞かれたのは、宮原さんについてじゃなかった。あの病院で生まれた赤ちゃんについて、知りたいということだったの」

へ……?

「あ、あか、ちゃん?」

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