Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

「私もねぇ、自分で骨折ってみて、わかったよ。本当に全然身動きできないんだねぇ。まだ若い男の子にとっては、さぞかし酷なことだったと思うよ。なのに、全然こっちを詰ることもせずに、まーちゃんは大丈夫だったかって、そのことばっかり心配してくれてねぇ」

おばあちゃんの言葉とともに無意識に流れ込んでくるのは、火事直後の、断片的な記憶。


――茉莉ちゃん、茉莉ちゃん! しっかりして!

水浸しの庭と、行き来する大勢の消防士、そして私を覗き込む学くん。

――一緒に行きます! 友達なんです!

担架に乗せられた私は、救急車へ。
学くんは私の手を握ったまま、一緒に乗り込んで……

梯子から落ちて、骨折してた?
なら、乗り込めるわけがない。

そもそも、私の傍へ寄ってくることだって、できたはずがない。
おばあちゃんなんて、ご近所さんに発見されるまで何時間も動けなかったんだから。

ということは。
つまり。

私を火事から救ってくれたのは、学くんじゃない、ってこと……?


「……おばあちゃん、ごめん。私、ちょっと用事思い出したから、もう行くね」
「え、えぇ?」

「ごめんっまた今度、必ず来るから!」

あっけにとられるおばあちゃんにモナカの袋を押し付けて、すぐに踵を返す。
そして、訳の分からない衝動に背中を押されるようにして、部屋から飛び出していた。

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