Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「幸い、梯子はギリギリ2階の窓の下まで届く長さがあった。あいつは一気に上って行って、なんとか窓から中へ入った。あいつがもう一度顔を出すまで、生きた心地がしなかったよ。2人とも死んじゃったらどうしよう、って……。でも各務はすごいよ。見事にやってのけた。君を背中に背負って――たぶんシーツか何かで君をくるんだ状態で――窓の外に再び現れた」
――怖い。苦しい。
――ケホッゴホッ……喉が、目が、痛くてたまらない。
――死にたくない。助けて! お願い、誰か……!!
――茉莉花!!
あぁやっぱりあの時聞こえた声は、クロードさんだったんだ。
あの背中は、クロードさんの背中だったんだ。
同時に、以前に感じた違和感の正体にも思い至る。
あの時私を助けてくれた人は、“茉莉花”って呼んだ。
“茉莉ちゃん”じゃなくて。
それこそが、助けてくれたのが学くんじゃないって証だったんだ。
「その後なかなか梯子に上手くあいつの足が乗らなくてさ、何度も落ちそうになってヒヤヒヤしたけど。そこへようやく消防が到着してね。すぐに消防車から梯子が伸ばされて、消防隊の人が君の身体を各務から受け取ったんだ。ところが、君の重みがなくなってバランスを崩したんだろうね、あいつは梯子から落下してしまった。動いているのが見えたから大丈夫だろうと思ったんだけど、後から聞くと骨折してたらしい」
おばあちゃんが言ってた通りだ。
やっぱりクロードさんは落下して、骨折までして……。
感情が揺さぶられて、視界が潤み始める。
「じゃあ、入院中毎日お見舞いに来てくれたのも……クロードさん?」
「そうだと思うよ。報道で事件の内容を知って……情けない話だけど、僕は君にどう接していいかわからなくてさ。受験勉強を言い訳にして、実は一度もお見舞いに行けなかったんだ。あいつなら、しばらく君と同じ病院に入院してたらしいから、顔を出しやすかったかもしれない」
――大丈夫だよ。落ち着いて。
――ほら、深呼吸してごらん。
――一回、二回、ほら、大きく吸って、吐いて、そう、上手だ。