Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

突き放すような声が耳に届くや否や、手から紙袋が滑り落ちていた。

バサッ!

しまった、とパニックになりながら膝をつき、零れ落ちた箱を大慌てで袋へ戻したけれど――遅かった。


「え……茉莉、花?」

ハッと顔を跳ね上げると、こっちを凝視するクロードさんと目が合った。

「あ、あのっ……おひっお久しぶりです! 私、いえそのっ、ええと、これはっ……」

「……ここで、何をしてる?」

びっくりしたような表情で聞かれて、返事を探すより先に気持ちが沈んでいく。

ショックだった。さっきの言葉、何もフォローしてくれないんだなって。
“結婚したのは間違い”“出会うべきじゃなかった”……私に聞こえたって、わかってるだろうに。

本当のことだから、否定も訂正も必要ない。
そういうことだろうな。

「え、ええと、あの、クロードさんに、ちょっとお会いしたくっ会社に行こうと思ったら、タクシーがこっちに停まって、えとっ」

胸の内に広がる空虚な想いをひた隠し、ガサガサっと袋の音を響かせて立ち上がる。
不格好な自分と、洗練されたカップル、その落差に羞恥がこみ上げた。

こんなんじゃ、15年前のお礼なんか言えやしない。


「……クロード、私、先に部屋へ入ってるわね?」

そんな私とは真逆の冷静な声が、まるで楔のように胸を突き刺す。

先に(・・)部屋へ入ってるわね(・・・・・・・・・)……

あはは……今日は一体、どれだけメンタルゴリゴリ削られればいいのかな。
もうそろそろ、いっぱいいっぱいなんですがー?

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