Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
もはや言葉もなく、エントランスへと去っていく高橋さんの背中を見送るしかない私。
そこへ、クロードさんがツカツカ近づいてきた。
「ちょっとこっち来い」
「え?」
腕を掴まれ、強引に車寄せの端へと連れて行かれる。
もちろんそこも通行人から見える場所ではあったものの、大柄な彼が壁になるようにして前に立ってくれたので、それほど周囲の目は気にせずにすんだ。
もしかして、怒られるんだろうか。
こんなところにのこのこ顔を出したりして?
大人しく離婚に同意すればいいだけなのに、って……あぁ気分がどんどん沈んでいく……
ところが。
「何かあったのか?」
「え?」
降って来たのは、思いがけないほど柔らかな低音と、優しい眼差しだった。
「電話じゃ言えないことか? 何をしてほしい?」
まるで、私のことが一番大事だとでもいうように、雑味のない視線で真っすぐ見下ろされて。
思わず胸を高鳴らせてその端正な面立ちに見惚れてしまい、慌てて顔を逸らした。バカね、真に受けて舞い上がったりするなんて。
彼は、責任感から私を放っておけないだけ。
思い出しなさい、“結婚したのは間違い”なのよ。