Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

「ええと、今日おばあちゃんのお見舞いに行ったら、VIPルームに移ってて。びっくりしちゃいました。クロードさんが手配してくれたって聞いて、お礼を言いたくて。本当に、いろいろ(・・・・)、ありがとうございました」

震える声で、それだけ言うのが精一杯だった。
“火事から救ってくれてありがとう”とか、それ以上言葉にしたら、間違いなく続けて“好き”って告白してしまいそうな気がしたから。

「……なんだ、そんなことか。メールでいいのに。わざわざ夜に出かけてこなくても」

あなたにとっては“そんなこと”でも、私にとっては違うんです!
反論したくなる気持ちを、ぐっと抑える。

「それとこれっ、クロードさんに渡そうと思って」

潤む瞳を高速の瞬きで誤魔化した私は、持っていた袋を彼へと押し付けた。

「これは?」
「チョコレートです。今日は、バレンタインでしょう?」

「え、あ、あぁ、そう、だったか」

戸惑いながらも受け取ってもらえて、ホッとする。

彼も今日がバレンタインだって、忘れてたみたい。
高橋さんからは、チョコもらわなかったのかな。

あぁそうか……今夜これから、ってことですね?

「一応まだ夫婦ですし。最初で最後ですけど、贈りたくて。押しかけちゃってすみません」

「最後、って……」

意味を察して、目を瞠るクロードさん。
私は、想像通りですよという意味をこめてコクリと頷き、左の薬指から指輪を抜き取った。

「これ、お返しします」

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