Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「茉莉花……」
あれ、計画通りじゃなかったのかな。
なぜかもの言いたげな表情で固まったままの彼にちょっと疑問は過りつつも、私はそれをチョコの袋の中へ投入した。
「じゃあ、そういうことで。お世話になりました」
早口でそれだけ言う。
必死に作った笑顔が今にも崩れそうだったから。
そして、急いでくるっと背を向ける――
「待て」
低い声が言い、再び腕が掴まれた。
今度は、さっきより強い力で。
「茉莉花は、それでいいのか」
ぐ、っと眉を寄せた険しい顔が、至近距離から私を見下ろす。
訳がわからない。どうしてそんな、納得いかない、みたいな……
「当たり前です。どうしてそんなこと聞くんですか。だいたい、離婚したがってるのはクロードさんの方――きゃっ」
らしくもなく彼が乱暴に舌打ちするのと、その広い胸に抱きすくめられるのとは、ほぼ同時だった。
「クロード、さ……」
固い胸板へ押し付けるように、きつく抱き込まれる。
懐かしいムスクの香りに包まれて、きゅっと胸が痛くなった。
「ならなんでそんな、泣きそうな顔をしてるんだ」
「泣っ……そんなこと……」
ない、と強がった台詞は言えなかった。
大きな手に後頭部を包み込むように撫でられて、胸がいっぱいになってしまったから。
あぁ、間違いない。この手だ。
私、この手を確かに知ってる。
――大丈夫だよ。落ち着いて。
――ほら、深呼吸してごらん。
――一回、二回、ほら、大きく吸って、吐いて、そう、上手だ。
あったかい手……優しい手……
私を守ってくれる、王子様の手……
「……っ」
お願いだから、そんなに優しく触れないで。
私に浅ましい期待を抱かせないで。
あなたは絶対、私のものにはならないのに。
あぁもっと早く、全部知りたかった。
こんなに好きになってしまう前に。
あなた以外が目に入らなくなってしまう前に。