Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
こみ上げる嗚咽を、何度も飲み込んで。
それでもようやく、かじかむ指先に力を込めて、その身体をぐいっと押しやった。
「茉莉――」
「さよならっ」
伸びてくる手を振り払って、一気に駆け出した。
よく足が動いたと思う。
無我夢中に全速力で走って、走って、客待ちのタクシーへ飛び乗る。
「出してくださいっ」
後部座席に蹲って、きつく耳を塞ぐ。
後ろは、怖くて振り返れなかった。
「っ、……ひ……」
堪えていたものが、堰を切ったようにあふれ出す。
あとからあとから、とめどなく。
これでいいんだよね?
彼を自由にしてあげられた。
自分の手で、終わらせられた。
私、よく頑張ったよね?
自分に言い聞かせながら、いつの間にか無意識に胸元のネックレスに触れている自分に気づいた。
これも返さなきゃいけないかな、プレゼントだしいいかな――そんなことを自問自答しながら歪む視界をわずかに持ち上げれば、そこへ広がるのは分厚い雲に覆われた暗黒の空。
月は見えない。
Once in a blue moon……
やっぱり奇跡なんて、起きなかった。
起きなかったよ、私には。