Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

例えば、リーズニッポンにバイトか派遣で潜り込んだりしてみようか。
潜入調査、みたいな?
もしかしたら、有力な手掛かりが見つかる可能性も……


「――らさん、宮原さん? 宮原さん!?」

「はっはい!?」
ビクッと肩を跳ねさせた私は、物件の内見に行くところだってことを思い出して、ドッと赤面した。

「大丈夫ですか?」

「は、はいっ、すみません。大きな声出したりして」

ぺこぺこ頭を下げて謝ると、私より若そうな営業マンは「いえいえ」と爽やかな笑みを浮かべた。

「ではこちらがお部屋になります」

鍵を開けてくれた彼に続いて、部屋へ入る。

ええと、オートロックつき、3階角部屋、1K、築20年。
条件は悪くない。ふむ。

「お部屋自体はあまり広くありませんが、大きめのクローゼットがありますので収納力は問題ないかと。バストイレ別、しかもリフォーム済みですし、こちらもポイント高いです!」

ふぅん、確かにお風呂やトイレは綺麗。
ウォシュレットなんて当然ついてないけれど。

キッチンがIHっていうのは私にとって嬉しいポイントだ。

考えながら窓を開けると、すぐ隣の建物が手の届く距離に立ちふさがっている。
室内が暗かったのはこのせいか。

私の顔が曇ったことを見て取った営業マン君が慌て出す。

「ま、まぁ都内ですしね。ビルの谷間ってこんなもんじゃないですか? ここのメリットは、なんといっても駅近! 最寄り駅まで徒歩5分、スーパーや銀行も近所にあってめちゃくちゃ便利だってことですよ。空きがでたら、すぐ埋まっちゃうんです。僕らは“ハワイ物件”って呼んでるんですけどね!」

「ハワイ物件??」

「“(空き)がない、常夏の物件”っていう意味です! あ、飽き(・・)が来ない、もかけてますよっ」

「…………」

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