Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
扉の内側に、お約束である非常経路の表示があり、私はそこでようやく自分が今シェルリーズホテルのロイヤルスイートにいることを知る。
ま、クロードさんが使うホテルだもの。
たぶんそんなとこだろうと思ってた。
独り言ちながら、そのまま何も考えることなくドアを開けて外へ足を踏み出して――
「ぶっ!」
いきなり目の前に現れた壁に思いっきりぶつかってしまい、いとも簡単に弾き飛ばされた。
「いたた……」
「大丈夫ですか?」
「は、はい、全然」
どうやらドアの前に人が立っていたのに、気づかず激突してしまったみたい。
「すみません、よく見てなく、て……」
謝りつつ視線を上へ上へと上げていくと、遥か上から見下ろすいかつい男性と目が合った。
「ひぃっ」
ブラックスーツ、スキンヘッドにサングラス!
思いっきり、映画に出てくるその筋の人じゃない。
え、何これ、なんでこんな人が部屋の前に立ってるの!?
「お怪我はありませんか?」
ひぇええっと怯える私に、スキンヘッドの彼は思いのほか優しい声で言い、助け起こしてくれた。
あれ、普通にいい人だった。
「ありがとうございました。では私はこれで」
ぺこぺこと頭をさげて「じゃ」とすり抜け、ようとして――進路は再び巨体で遮られた。