Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
やがてやって来た彼女は、美しく口角を持ち上げながら私へ名刺を差し出した。
「何度か会ってるわよね? 自己紹介が遅くなってごめんなさい。高橋雪代と言います」
上品なヌーディーカラーに染まったその指先から名刺を受け取る。
やっぱり、というか、彼女もリーズグループ勤務だ。
リーズニッポンの秘書課長だって。この若さで!
「宮原、茉莉花です。名刺は、なくてすみません」
「あら気にしないで」
朗らかに言って向かい側へ腰を下ろすその人を、なんとなくジトリと見つめてしまった。
初めて会った時から感じていたけど、女性らしい外見の中にも聡明そうな雰囲気がある人だ。きっと仕事でも優秀なんだろうな。
さすがクロードさんが選んだ女性――思うそばから、心がシンと冷えていくのを止められない。
「なんて呼んだらいいかしら。宮原さん? ちょっと他人行儀かな。茉莉花さん、でいい?」
そんな私のダダ下がりのテンションとは裏腹に、まるで親戚のお姉さん、みたいな人懐こい笑みを向けてくるから、反応に困ってしまった。
私たち、もうすぐ元妻と新妻、になろうっていう関係のはず、よね?
「はい、ええと、なんでもいいんですけど……あの、気にしないので、本当のことをおっしゃってくださっていいですよ?」
思った以上に不愛想な声が出てしまったせいか、彼女は驚いたみたい。
「え? 本当のこと?」
「クロードさんと付き合ってるんでしょう? わかってますから、隠さなくてもいいです。ちゃんと離婚しますし、安心してください」
我慢できずにぶちまけてしまった、ら。
高橋さんは「えぇっ!?」とソファから浮き上がりそうな勢いでのけぞった。
「ままま待って、待って、どうしてそうなるの!? わたしがキングと!? ないないない、ないわよ! 無理無理! 付き合うわけないじゃない!」