Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
その後、クロードさんたちに気づかれた時のためにあちこち遠回りをしながら、電車とバスとを乗り継いで、無事におばあちゃんの家までたどり着いた。
ここに来る途中公衆電話から連絡して確かめたら、おばあちゃんはちゃんと病室にいた。特に不審者の情報もなく、変わりはないみたいでホッとする。
今のところは無事ってことだ。
もちろん、だからといって今後も何もない、とは言えない。
あんな動画を撮れたんだもの。
病院の内部に、いつでも危害を加えられる位置に、Xの仲間がいるんだろうから。
時間は、午後8時。
約束まではまだ少し時間がある。
中に入って待ってればいいか。
鍵――荷物をまとめた時に使って返しそびれていたヤツ――を差し込み、ドアを開ける。
カラカラ……軽い音を立ててドアが横に滑った。
大丈夫。
まだXは来てない。
そう思うのに、静寂に満ちた玄関、そしてその向こうに続く暗闇は見知らぬ場所に見えて、ゾクリとする。
怖い。
怖い。
クロードさんが傍にいてくれたら……ううん、甘えちゃダメ。
もうこれ以上頼っちゃダメなのよ。
これ以上、私のせいで彼の人生を壊したくない。
震える手を伸ばして、壁を探る。
緊張はもうマックスで――カチッと小さな音がして照明がついた時は、ほとんど崩れ落ちるかと思った。
足音を忍ばせて恐る恐る三和土に入り、靴を脱いで上がり、その先の和室へ進む。
あぁよかった、ここもちゃんと電気つくじゃない。
明るい光で室内が満たされると、見慣れた風景のおかげで不安は大分和らいだ。
念のため、少しでも逃げ道を確保しておこうと締め切った雨戸を開けて回る。
こうすれば灯りが外へ漏れるし、おばあちゃんが入院中であることを知ってるご近所さんが通りかかって、おかしいと思ってくれるかもしれない。
私なかなか冴えてる! って自画自賛してから、お父さんとお母さんの遺影の前へ行き、へなへなと座り込む。
「お父さん、お母さん……なんだかとんでもないことになってるよ」
愚痴っぽくつぶやいてしまいつつも、2人の顔を見ていたらなんとなく元気が出てきたような。
お父さんたちが守ってくれる。
根拠もなく、そんな自信が湧いてきたから。
とにかく、犯人に会えたら自首を勧めよう。
どこまで話を聞いてくれる相手かどうかはわからないけど……