Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
なかなか9時にならないな。
手持無沙汰になった私は、緊張を紛らわそうと供養台の上のアルバムを手に取った。
ページをめくれば、1枚1枚に家族の思い出が溢れていて、胸がいっぱいになる。あぁ懐かしいな。
幼稚園の入園式、お遊戯会、卒園式……
この辺りはお正月にクロードさんやおばあちゃんと一緒に見たのよね。
そういえば……クリスマス会の写真があるよって学くん、言ってたっけ。
あぁこれこれ。
宮原塾とキズナの、毎年恒例の合同イベント。
塾生じゃなくても参加OKで。
子どもはもちろん、キズナのボランティアさんや塾の講師の先生、ご近所さんもみんな集まって、わいわい楽しいんだよね。
集合写真で中央にデンと座っているサンタクロースはお父さんだ。
――これはチョコレートケーキだぞぅ。あとで先生にもくれな。ちょこっとでいいぞ、チョコだけに。
――モンブランもあるぞ! でっかい栗だろ? びっくりだなぁ!
ふふ、みんなドン引きしてたっけ。
知依ちゃん、香ちゃん、学くん、……あぁやっぱりクロードさんはいないか。
昔のクロードさんが写ってる写真、1枚くらいなかったのかなぁ。
と、次のページをめくろうとして。
……あれ?
手が止まった。
視界の端に映った、1人の男性に気づいたからだ。
一番後ろの列、真ん中くらいに立ってる背の高い男の人。
あれ、この人って、……似てない?
似てるよね、あの人に。
え? 他人の空似?
ええと、青いこのエプロンはスタッフ用だから……あぁそうだ、バイトで塾の講師やってくれてた大学生だ。
直接勉強を教えてもらったことはないけど、すれ違えば挨拶くらいはしてた。
――ミンミン先生、こんばんはー。
――こんばんは、宮原さん。
脳裏に、稲妻が走ったみたいに何かが閃き、繋がった、気がした。
あの声、まさか……!
カラカラ……
玄関のドアが開く、軽い音が響いた。