Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

あまりの衝撃にしりもちをついてひっくり返り、乾ききった喉から声にならない悲鳴を上げた。
心臓までひっくり返るかと思った。

その男は、人間じゃなかった。

正確に言うと、その顔は、生きている人間のものじゃなかった。

マスクだ。

にぃっと意味深に笑った形の口に、口ひげと尖った顎、というどこかで見たことのあるような不気味なフルフェイスマスクをかぶっている。


カタカタカタ……

小刻みに戦慄く手をギュッと握り締めて、襲ってくる恐怖に耐えた。


落ち着け。
落ち着け、茉莉花。

Xがマスクをかぶってる理由は、たった一つ。

私に、顔を見られたくないから。

なぜ?

理由なんてはっきりしてる――私が彼を、知ってるから。
見ればすぐに、わかってしまうから。

間違いない。Xは、()だ。

怯んだら負け。
さぁしっかりして!

自分を精一杯叱咤して、動きの鈍い唇を全力で動かした。


「……そ、そのマスク、取っても、大丈夫ですよ。私、あなたのこと思い出しましたから――ミンミン先生」


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