Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
18. 対決
「それとも、今の名前で呼んだ方がいいですか――香坂明良さん」
「くっくっく……くくくく」
くぐもった笑い声が聞こえた。
マスクの下からだ。
肩を揺らしながら可笑しそうにひとしきり笑ったXは、おもむろにマスクを剥ぎ取った。
下から現れたその顔は、トレードマークのリムレス眼鏡こそかけてないものの、予想通り知依ちゃんの彼氏、香坂さんのものだった。
「せっかく凝った演出を考えたのに。そんなにすぐバラしちゃ楽しくないじゃないか」
「笑わないでください……何がそんなに面白いんですか?」
「固いねぇ。あのふざけたダジャレ好きな先生の娘とは思えないな。もう少し人生を楽しまなくちゃ」
誠実そうな印象はガラガラと崩れていく。
ニヤニヤと笑うその表情も口調も、とても私が知ってる香坂さんと同一人物とは思えなかった。
「やっぱりミンミン先生、だったんですね」
本名は、確か王明。
上海からの留学生で、みんなにミンミン先生って呼ばれてた。
受験生のマンツーマン授業も引き受けていて、頭のいいヤツだってお父さん褒めてたっけ。
「顔は見られてないと思っていたけどね」
「声で、思い出しました。15年前の夜、逃げ出した私の後ろから聞こえた声……」
――茉莉花! 逃げなさいっ!! 早く逃げるんだ!!
――……〇%$%
彼も同じシーンを思い出したのか、「ふぅん」と関心も薄そうに頷いた。
「あぁそうそう、確か……『為什麼你在這裡』――“なぜお前がここにいるんだ”、とか、叫んだような気がするな。あの日は塾長しかいないと思っていたから」
そうだ、確かにそんなような響きだった。
あれは中国語か……って、一体彼は何者?
――Xやプラゼットの行動から透けて見えるのは、リーズグループへの根深い恨み。
リーズグループと、一体どんな関係が……?