Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

実は彼の方も話したくてうずうずしてるんじゃないかと、うっすら思ったのよね。ビンゴだったみたい。

どうやったら話を自然に長引かせられるか、私は頭が痛くなるくらい考えながら、慎重に言葉を選んだ。

「まず聞きたいのは……どうして塾講師のバイトなんかやってたのかってこと。あなたも赤ちゃんの情報を手に入れたかったの? それでお父さんに近づくために――」

「あぁそうさ」と彼は首を縦にした。

「李宇航に隠し子がいた、っていう情報を小耳に挟んですぐ、その子どもを探そうと思ったよ。ちょうど日本に留学中で、グループの連中より素早く動けたし――ただ、あいつらと一緒にしてもらっちゃ困るな。目的が全然違うんだから」

「目的?」

香坂はリラックスしてきたのか拳銃を持っていない方の手で、かぶっていたマスクをピザ生地を回すみたいにぐるぐる回し出した。

「僕の一番の目的はね、その子どもの排除(・・)だ」

相手の眼差しが、一瞬底知れない色に沈んだ気がして、全身へ冷たい衝撃が走った。

「一番先に見つければ、事故に見せかけるとかなんとか、そのチャンスもきっとあるだろう? だからこそ、講師として潜り込んだ。きっと塾長の近くに、目指す相手がいるだろうと推測してたから。日本語にも言うだろう、急がば回れ、ってね」

さらっとしゃべってるけど、つまりクロードさんを殺そうとしてたってことよね?

「あなたは、一体何者? リーズグループの関係者なの?」

「関係者、ね。僕としては、被害者、と言ってほしいけど。あの母子(おやこ)のせいですべてを奪われた、被害者」

吐き捨てるような口ぶりが、気になった。
これがおそらく、リーズグループへの恨みの原因だ。

「すべてを、奪われた……?」

「そうさ。あの女のせいで両親は離婚した。僕はお母様と一緒に外国へ追い出された。息子だと名乗ることすら許されず、後継者としての権利も奪われた。すべてあの母子のせいだ。愛人の子を排除して、正当な地位を取り戻したいと思うのは、自然なことだろう?」

母子、っていうのは、美里さんとクロードさんのこと?

美里さんのせいで、離婚。
外国へ追い出されて……
後継者としての権利を奪われて……

その条件を満たす人物が、たった一人いるとすれば、それは。

「愛人の子を排除、って……あなたは、まさか……」


――彼には妻子がいてね、つまり2人は不倫の関係だったの。

あぁそうか。李宇航氏の、正妻の息子……つまり、……

「あなたは、クロードさんの、腹違いのお兄さん、ってことね?」

< 317 / 402 >

この作品をシェア

pagetop