Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

「わ、江戸切子だ。綺麗」

シャワーを浴びてパジャマに着替えた私は、自分の部屋で香ちゃんたちからもらったプレゼントを開けていた。

繊細な模様が描かれた、赤と青のペアグラス。
照明を反射して屈折した光が、キラキラと周囲に降り注ぐ。

日本酒みたいな透明なお酒を注いだら、きっとすごく綺麗。

「クロードさんと、飲みたかったのにな」

そんな日は、来るんだろうか?

グラスを箱に戻して、そのまま仰向けにベッドへ倒れ込んだ。

ベッドやドレッサー、ソファ、ライティングデスクまで揃った10畳ほどのそこは、私専用にとクロードさんが手配してくれた部屋。
ベージュや白といった淡い色のインテリアが特徴のカントリー風の空間で、他の部屋が黒を基調に重厚な雰囲気でまとめられているのとは対照的になっている。

私が好みそうなものを、とオーダーしてくれたんだろう。

クロードさんは、完璧だ。
外見だけじゃなく、中身まで。完璧な旦那様。

結婚に至るまでの流れでオレ様な性格は理解してたから、料理や家事、金銭管理とか、いろいろダメ出しされるのかなって若干覚悟してたのに。

ふたを開けてみたら、なんと真逆の展開。

私の素人料理も美味しいって食べてくれるし、掃除をサボっても一度も文句なんて言わない。

柊馬の学費は言うに及ばず、クローゼットには、おねだりしたわけじゃないのに彼が買ってくれた服やカバンがぎっしり。キッチンではピカピカの最新調理家電が私を待っている。

あのイケボをデスボイスのごとく険しくして、仕事の指示らしき電話をかけてる所は何度か目撃したことがあるから、ビジネス関係ではやっぱりシビアな人なんだろうけど。

私に対してはいつも、すごく紳士的。束縛することもなければ、声を荒げることも感情的になることもない。

はたから見たら、夢のような専業主婦生活、になるんだろうな。

――いいなぁ超愛されてるじゃん!
――溺愛ってやつだねー、羨ましい~。


そう。確かに彼は、私に甘い。
ただしそれは、溺愛の“甘い”じゃなく、厳しくないって方の、“甘い”。

興味がないから放っておかれてる、そんな気がしてしまうくらい。


左手を天井にかざすと、煌くダイヤモンドが眩しく映った。

一体誰が信じるだろう。
私たちの間に、まだ身体の関係がないなんて……。

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