Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「あはははははっ……いい気味だ。感謝するよ、宮原茉莉花。わざわざおびき出して始末する手間が省けた。これで後継者は正真正銘、僕一人になったわけだ!」
嗤い声とともに香坂は庭へ降り、悠々と去っていく。
車のエンジン音が聞こえる。他にも仲間がいたんだろう。
あぁ香坂が逃げてしまう……ううん、そんなこと今はどうでもいいっ!
「クロードさん、クロードさんっしっかりしてください!! 今救急車呼びますから!」
ダメだ、私スマホ持ってないんだった。
じゃあ家電!
何度も畳の上で滑りそうになりながら隅の電話機に飛びつき、勢いよく受話器を持ち上げる。
が――
「何これ」
何の音も聞こえない。
通じてない。電話線が切られてるんだ。
嘘でしょ、止めて止めて、どうして……
「クロードさん、待っててね。今お隣に電話貸してもらってくる。もうちょっとだからね、頑張って! すぐ救急車に来てもらうから!」
彼の元へと戻って動揺を抑えつつ精一杯元気な声で言うと、黒曜石みたいな双眸が静かにこちらを見上げた。
ゆるゆるとその手が動き、私のコートを掴む。
「クロードさん……?」
「……これで、いい……いいんだ」
苦し気な呼吸の合間から紡がれる切れ切れの言葉は、彼らしくもなく今にも消えそうで、絶望と焦りばかりが募っていく。