Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「あはははははっ……いい気味だ。感謝するよ、宮原茉莉花。わざわざおびき出して始末する手間が省けた。これで後継者は正真正銘、僕一人になったわけだ!」
縁側から下へ降りようとする寸前、香坂がチラリとこちらを振り返って勝ち誇ったように嗤うのが見えた。
やはり、茉莉花を狙ったのはフェイクか。
どうりで構えてから発砲まで時間がかかりすぎると思った。
彼女を狙えば間違いなく俺が庇おうと飛び込んでくる、それを見越した罠だったんだろう。
「クロードさん、クロードさんっしっかりしてください!! 今救急車呼びますから!」
彼女が部屋の隅へ駆けていく。
だがすぐに、絶望的な表情で戻って来た。
電話がつながらなかったんだろう。電話線でも切られていたか。
「クロードさん、待っててね。今お隣に電話貸してもらってくる。もうちょっとだからね、頑張って! すぐ救急車に来てもらうから!」
気丈に振舞おうとする彼女。
こんな時なのに、可愛くてたまらない。
あぁ彼女を抱きしめられたらいいのに。
鉛が詰まったような今の体では、彼女の服を掴むのが精いっぱいだった。
「クロードさん……?」
「これで、いい……いいんだ」
もたつく唇をなんとか動かすと、彼女がくしゃっと顔を歪めた。
「よくないっ! 全然よくないです!!」
彼女はコートを脱ぎ、俺の身体へ押し当てる。
赤く染まっていくのがうっすらとわかった。
「やだ、やだクロードさんっ!」
茉莉花、そんなことしなくていい。
「まりか……わらって、くれ……」
「こんな時に笑えるわけないじゃないですかっ!」
君にはいつも、笑っていてほしいんだ。
君の笑顔を守るために、俺は生きてきたのだから。
「どうかずっと、わら、って。……俺は、きみのえがお、がす……」