Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
画面が切り替わり、小学生の茉莉花が現れる。
――初めまして、宮原茉莉花です! お兄ちゃんキズナは初めて? ここ、空いてるよ!
そうだった。君は臆することなく初対面の俺に話しかけてくれたよな。
当時から不愛想でふてぶてしい、強面だと言われた俺なのに、君はまったく遠慮しなかった。
俺を見るといつもパッと花が咲くような笑顔で迎えてくれた。
――茉莉花って、お花の名前なんだよ。ジャスミンっていうお花。知ってた? とぉってもいい匂いがするお花なの。
両親が大好きだと言う花の名前をもらった彼女は、明るくて可愛くて、みんなに愛されていた。
君に会うたび、俺の中のひねくれて鬱屈した何かが浄化されていくような気がした。
君の笑顔を見るのが次第に楽しみになって……もちろん、君が一番の笑顔を見せるのは俺じゃなかったけれど。
――学くん、学くん、ここ、わからないんだけど教えてー?
――どこ? あぁここはね……
彼女を独占する藤堂に、何度イラついたことだろう。
だがその時はまだ、その気持ちが何なのか気づいてはいなかった。
気づいたのはあの夜、そう、事件が起きた、あの夜――
犬の散歩をしている俺が見える。
あの犬は、成哉がねだって買ってもらったミニチュアダックス。
早々に飽きた弟に代わってきなこの散歩はすっかり俺の仕事になっていたが、その夜一緒に出掛けたのはきなこのためじゃない。
夕方立ち寄ったキズナで、茉莉花が熱を出してると聞いたからだ。
先生の奥さんはキャンプで不在。
父親だけで看病できるのかと、心配になった。