Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
コンビニでゼリーとかスポドリとか適当に買って、そちらへと向かう。
犬の散歩でたまたま通りかかったから、とか言って差し入れるつもりだったのに……
――ウーワンワン! ワワン!
いきなりきなこが激しく吠えだした。
リードをなんとか放すまいとついていけば、焦げ臭い匂いが鼻をつく。
前方に煙が見えて、ゾッとした。
あれは、宮原塾じゃないか?
その時、通り過ぎようとした一軒家の2階の窓が開き、声が聞こえた。
――各務? 各務だよな? こんな時間に犬の散歩か?
藤堂だった。
――煙が出てる! 火事だ、消防車を呼んでくれ!
通報を頼んで、現場へ急ぐ。
間違いない、宮原塾が燃えていた。
追いついた藤堂と一緒に窓の多い庭側へと向かうと、1階から赤い炎がチラリと見えた。
火元は1階らしい。
先生と茉莉花は大丈夫だろうか。
どこからか、中へ入れるところは……2階はどうだろう?
梯子を使えば、なんとか届くかも……
そこで、ハッと息を呑んだ。
2階の窓が開いて、一瞬だけ茉莉花の顔が現れたのだ。
苦しそうにせき込み、そのまますぐに見えなくなってしまう。
消防の到着を待て、という藤堂の制止を振り切って、庭の物置めがけて全速力で走った。
以前庭木の手入れを手伝わされた時に使った梯子、あれなら2階までギリギリ届くんじゃないか――俺の予想は幸運にも的中した。