Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
――きっと俺たちなら、いいパートナーになれそうな気がしたんだ。
パートナーって、まさか最初から、家政婦要員か女避けのための契約結婚のつもりだったとか?
けどそれなら、さすがに事前に説明があるべきよね?
考えて考えて……今一番ありそうな展開だと思っているのは、入籍後の海外出張中に何かあった、ってパターン。
何か、というか誰か、というか。
そこで運命の人に出会っちゃって、私との結婚を早々に後悔してる、なんて……
いやいや、違うよ。
だってそれならさっさと追い出せばいいもの。
私に贅沢させておく意味なんてない。
「うぅっ……わからない」
比較すべき対象も参考にすべき経験もない私には、考えても考えても答えの見えない迷路に嵌まり込むばかり。
今日、やっぱり知依ちゃんたちに相談すればよかったかな。
でもおめでとうってお祝いしてくれてる彼女たちを前にしたら、言えなかったんだよね。
こんな時、お父さんたちが生きててくれたらな、と埒もないことを考えながらぼんやりと天井を眺めていると……
記憶の奥から、軽妙なやり取りが蘇ってきた。
――お母さん、お母さん! さっきオレ、躓いてさ、花瓶割っちゃった!
――お父さん、私に何を言わせたいかわかってるけど、言いませんからね。
――えーいいじゃないか、言ってくれよー『ガビーン』って言ってー!
――言いませんっ! え、冗談じゃなくてホントに割ったの!? 何してるの、とっとと片づけてきて! 子どもたちがケガでもしたらどうするのっ!
――ガビーン、怒られちゃったー!
――ふざけんなーっ!!
毎日のように繰り返される夫婦漫才。
もーまたやってるよ、って呆れた視線を交わすのが私と柊馬のお約束。
お父さんはいつも太陽のように明るく笑っていて、我が家の中心だった。
私たちは、それが当たり前だと思っていた。
まさかある日突然すべてがなくなってしまうなんて、誰が想像できただろう?
クロスさせた腕でぼやけた視界を遮る。
頭の中に浮かぶのは、もう何万回も繰り返した問いだ。
どうしてお父さんは、殺されなきゃならなかったんだろう――