Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

長い間音信不通だった幼馴染が突然現れたと思ったら、妻子ある男の子どもを身ごもっていた。
先生はさぞ驚いただろう。

――彼女が天涯孤独の身の上で、身体がもともと丈夫ではないことを知ってた彼は放っておけなかったのね。父親代わりとして出産にも付き添ったそうよ。

先生の不安は的中した。
俺の誕生と引き換えに、母は命を落とすこととなったのだ。

――最初はね、あの人あなたを自分が引き取る気だったらしいわ。でも、美里さんの希望は違った。

母も、独身の先生にそこまで図々しく頼むことはできなかったようだ。
結局、残された俺は母の遺言通り、「蔵人」という名前とともに音大時代の親友へと託された。それが各務直子だ。

――夫は、各務さんのことを全然知らなかったし、預けていいのかってずっと心配していたの。ちょうど派閥争いで研究職にも愛想をつかしてたそうでね、ついには仕事を辞めて、あなたのいるこのS市へ引っ越してしまった。

そこで晴美さんと出会って結婚、2人の子どもに恵まれて……俺のことがいつしか頭の片隅に追いやられてしまったとしても、誰が先生を責められるだろう。

けれど先生は、街で半グレとつるむ俺を見かけて、放っておいた自分を責めたに違いない。
しつこく構い、キズナへ誘って来たのはそれが原因だろう。


――あなたに関わらなければ、あんなことにはならなかったのに……

はらはらと、晴美さんが涙をこぼした。

どういうことかと更に尋ねて、俺は愕然とすることになる。
先生は、俺の居場所を隠し続けたために殺された可能性がある、と言われたからだ。

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