Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
――あなたじゃ、ない? 宮原昌行を知らない、っていうんですか?
俺の予想では、すべての糸を引いていたのはフレデリック・リーのはずだった。
しかし彼は自分ではないと言う。
――そんな話、俺が信じるとでも?
今までの努力を全否定された気がして、思わず気色ばむ俺を宥めるようにあの人は肩をすくめた。
――事実だから信じてもらうほかないのだが……人殺しの汚名を着せられては、わしも黙っているわけにいかんな。そこまで疑うなら、気が済むまで調べてみるか?
そうして提案されたのが、SDの創設だった。
グループ内部を、あらゆるしがらみや忖度を排除して、極秘調査する部署。
そのリーダーとなった俺は、グループ傘下の投資会社で働く傍ら、ユキや他メンバーの協力を得て、事件の謎を追っていくことになる。
さぁ、映像はようやく、現在に追いついてきた。
――どうせなら結婚しちゃえば?
定期的に受け取っていた調査員からの茉莉花の近況報告で、彼女が会社でセクハラ被害に遭っていると知った時、ユキが俺に言った言葉だ。
絶句する俺を見つめる生ぬるい眼差しを覚えている。
――たぶん弟さんの学費のことがあるから、辞められないんでしょ。結婚しちゃえば、夫として自然に経済的な援助ができるわよ。彼女は、嫌な仕事を続ける必要がなくなる。ただの恋人じゃダメよ。援助の理由としては弱いから。
――俺は彼女の幸せを奪った男だぞ。二度と近づかないと、晴美さんに約束もしたし……。
――そんなこと言って、手遅れになったらどうするの?
――手遅れに……?