Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
20. 邂逅② クロードside
――ブルームーンを出しておくよ。それが茉莉花ちゃんだって合図だ。
薄暗い店内で、背後から声をかけるのだ。
相手を間違えたらシャレにならない。
若干心配する俺に、旧知のマスターが事前に約束してくれた。
(余談だが、彼の本業は弁護士で、うちの会社の顧問弁護士でもある)
けれど、結論から言うとカクテルなど必要なかった。
俺は一目で、カウンターに座るそのほっそりした後姿が茉莉花だとわかったのだから。
店の前で面倒な女に見つかって絡まれたのは想定外だったが――付き合っていたわけではない。仕事をやりやすくするために多少優しくしてやったら、特別扱いされたと勘違いしたらしい――、結果として茉莉花と言葉を交わすきっかけが出来たし、結果オーライだろう。
――あの、大丈夫、ですか?
大人の女性に成長した彼女は、あのピュアな笑顔はそのままに、ますます魅力的になっていた。
案の定というか俺のことは覚えてなくて、気分は下降気味だったが、俺の贈ったジャスミンを栞にしてくれてることを知り、あっという間に回復する。
もはや初めて会った中学生の頃のように、高鳴る鼓動を隠すのに必死だった。
封印したはずの彼女への想いは努力もむなしくあっという間に俺の心を埋め尽くし、結婚へと俺を前のめりに突き進ませた。
愛してくれなくていい、俺のことは財布かキャッシュカードとでも思ってくれれば、と少々強引にコトを進め――彼女がプロポーズに頷いてくれた時は、天にも昇る気持ちだった。
だが、それからの日々は、天国で味わう地獄、とでもいえばいいのか……。
好きな相手と一つ屋根の下で暮らす、ということを甘く見ていた。
離婚前提で手を出さない、と決めた以上、彼女に触れるわけにはいかない。
しかし、「お帰りなさい」と迎えてくれる笑顔、一緒に囲む食卓、他愛もない世間話……日々想いは募っていくのに何もできないというのは、想像以上の拷問で。
自縄自縛とでも言うべき沼に、俺は早々に落ちていくことになるのだ。