Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
最初は、割と順調だった。
新婚当初に出張を詰め込み、初夜も含めて家に帰らなかったのも、計画のうち。
大事なのは、茉莉花が快適に過ごせるかどうか。
俺自身の感情など些末なことだと鋼の意志で抑え込み、彼女には必要以上に近づかないよう努めた。
寂しい思いをさせて申し訳ないと心は痛んだものの、仕事を言い訳に家を空け続けていれば、そのうち彼女もそれが普通だと認識してその状況を楽しめるようになるだろうと思っていた。
何しろ金なら唸るほどあるのだ。
危険なことにさえならないなら、ホスト遊びだって許容するつもりだった。
ところが――事態は思いがけない方向へ進んだらしく、ほどなく危機はやってきた。
――すすすっすみませんっ!! お見苦しいものを!!
茉莉花が襲ってくださいと言わんばかりのあられもない姿で部屋から現れた時は、鼻血を噴いて卒倒するかと思った。
同時に脳裏に過ったのは、嫉妬。
こんな格好を一体誰に見せるつもりなのかと……
心の中は大荒れだったが、抱き上げる際に触れた彼女の身体の柔らかさ、甘い匂いで一旦すべてがリセットされる。
――あれだけ叫べれば大丈夫だな。体調がよくないのに、もうそんな薄着はするなよ。
澄まし顔で言ってからバスルームへ駆け込み、冷たいシャワーを浴びつつ俺が何をしていたか知ったら、彼女は引きまくるに違いない。
――お願いしていいですか? ありがとうございます。
その後も茉莉花の周囲に男の影は見えず、それどころか俺が在宅の際は極力会話を続けよう、距離を縮めようと努力してくれる。
――そ、そんなに褒められたら、調子に乗っちゃいますよ? お弁当とか、作っちゃったりして。
わざわざ弁当まで作ってくれると言われて、ようやく気付いた。
俺はカン違いをしていたらしい、と。
財布代わりに利用してくれればいいだけなのに、どうやらちゃんと妻として俺との結婚生活に向き合おうとしてくれているらしいと理解する。
となると、まさかあの下着も俺のためだろうか。
なんだそれは。可愛すぎるだろう……。
俺がどれほどの多幸感に悶えたか、彼女は知るまい。