Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

――ええと、一人で家にいると、寂しいっていうか。時間を持て余してしまいますし、何か理由がないと一日籠ってしまうので……。

――趣味を持ったらどうだ? 音楽でもスポーツでも、いろいろあるだろ?

彼女に何を言われても動揺することなく振舞えるように、彼女へ気持ちをぶつけてしまわないように、いつだって自分を懸命に制した。

大抵は、なんとかうまく対処できた。
男に会いたいと言われた時は、危なかったが。

――友達のお兄さんで、幼馴染でっ。ずっと海外で働いていたんですけど、日本に帰国したって聞いたので久しぶりに会いたいなって。私の命の恩人なんです。

藤堂だと、すぐに分かった。
ついに帰国するのか、彼女に会うのか、彼女を火事から助けたのは俺なんだぞ――胸の内に瞬く間に醜い嫉妬の嵐が巻き起こった。
けれど、表には出さない。

――わかった。俺に反対する権利はない。会ってくるといい。

落ち着いて返せたのは、日々の訓練の賜物だろう。

もちろん、いつも上手くできたわけじゃない。
例えば、あの夜。
酔っぱらった茉莉花をブルームーンから連れ帰って……

――行かないで。
――一人で寝ると、怖いことが起きるから。お願い、行かないで?

とろんと潤んだ目で俺を見上げ、しがみついてくる茉莉花。
柔らかな身体を押し付けられて、アルコールと混ざった媚薬のような彼女自身の香りに、ガラガラと理性が崩れていく音が聞こえた。

――ったく、そんなカオするな……抑えが、効かなくなるっ……

戯れのようなキスと添い寝でかろうじて堪えられたのは、奇跡だったとしか言いようがない。
それはおそらく……一線を越えてしまえば、この穏やかな幸せが終わってしまうと、本能で理解していたからだろう。

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