Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

――社長に何が入ってるかわからないものを食べさせるわけにはいきませんので。私がお断りしておきました。

秘書(速水)の発言に開いた口が塞がらなくなったのは、その翌日だったな。

せっかく茉莉花が弁当を届けてくれたというのに、運悪く電話中だったため彼女に応対を頼んだところ、結果がさっきの発言だ。

――俺の指示とは全く違うな?

怒りを抑えながら言う俺に、女は媚びるように微笑んだ。

――ボスの仕事が円滑に進むよう自分で考えて行動するのが、秘書の務めだと思っておりますので。

――そうか。妻の好意を踏みにじって、それで上司()のパフォーマンスが上がると信じているようなら、そんな秘書は不要だ。もう帰れ。処分は追って連絡する。

そこまで言うと、さすがに相手の顔が引きつった。

――お、お待ちくださいっ。私、婚約者と別れたんです! 

――……だから?

怒りが勝ると想像以上に言葉は短く、声は低くなるらしい。
一瞬鼻白んだ彼女だが、果敢にもう一度口を開く。

――ず、ずっとお慕いしてました。あんな女性(ひと)、あなたの仕事のことなんか何もわからないし、当然サポートなんてできるわけないし、あなたに相応しくありません! 今なら私もフリーですし、社長のことを公私ともに支えて……っ

彼女を増長させてしまったのは、俺の責任だ。

将来茉莉花と離婚する時、誰かと不倫の真似事をしなければと思っていたため、速水も候補者だったのだ。
そのせいで、少々目をかけすぎたかもしれない。

ただ、それで速水が茉莉花を傷つけたとあっては、本末転倒だ。

――君に、俺のパートナーについて心配してもらう必要はない。

俺はもう一度異動を宣言。
蒼白の彼女を部屋に残して、茉莉花を探すべく会社を飛び出したのだった。

< 349 / 402 >

この作品をシェア

pagetop