Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
彼女のスマホには、Xに狙われた時のことを考えて位置情報を知らせるアプリが入れてあり、居場所はすぐに特定できた。
(スマホの電源が切れた時のことを考えて、GPS機能つきのアクセサリーをクリスマスプレゼントにしよう、と思いついたのはこの時だ)
とはいえ、地面に倒れ込み、男に車へと引きずられようとしている茉莉花を見つけた時は、本当に心臓が止まるかと思った。
犯人は彼女の元上司・高岡。
Xやプラゼットの関係者かとも考えたが、奴らなら真昼間の住宅街で襲うようなバカな真似はしないだろう。
だが安心はできない。
この先も茉莉花が絶対安全とは限らないのだ。
彼女を失う。
その恐怖をリアルに感じたのは、15年前のあの夜以来だった。
違っていたのは、あの頃よりずっと、彼女の存在が俺の中で大きくなっていたこと。
愛してる。
愛してる。
もっと愛したい。
心も身体もすべて、溶け合うほどに俺のものにしたい。
急速に育っていく想いは、茉莉花の足の治療のために訪れた病院で藤堂に再会し、さらに大きく膨らんでいく。
――つい先日、アメリカから帰国したばかりなんですよ。
――奥様とは積もる話もありますし、今度食事に誘いたいと思ってるんです。別に構いませんよね?
構うさ、構うに決まってるだろう!
叫んでしまいそうな自分に、寸でのところで待ったをかける。
茉莉花の初恋の男。
優秀な外科医で、収入も十分。
俺さえ身を引けば、2人は……そう考えるだけで、強烈な嫉妬が俺を苦しめた。
彼女は俺のものだ、まだ。
悪夢で魘される彼女を救うため、と言い訳しつつ、その夜から彼女を抱きしめて眠るようになったのも、藤堂への嫉妬と独占欲が大きく影響していたと思う。