Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
そして年末年始――茉莉花は捻挫した足で難儀しただろうが、俺にとっては至福の時間となった。
彼女を部屋に閉じ込めて誰にも会わせず、俺が用意した食事を一緒にとり、俺がベッドまで運んでやって、一緒に眠る。
さすがにバスルームまでは入らせてもらえなかったものの、そうやって2人きりで過ごしたクリスマスや正月のことは、一生忘れないだろう。
クリスマスプレゼントにもらった手袋は、もったいなくて未だに使えず、もっぱら観賞用となっている。
と同時に、徐々にコントロール不能になっていく狂った愛情を自覚し、危機感を感じ始める。
そこへうまい具合に冷水をかけてくれたのが、里帰り帰省だった。
実は茉莉花には言っていないが、おばあ様の家を訪れるのは初めてじゃない。
晴美さんの葬儀の際、弔問客に紛れてそっと焼香だけさせてもらったのだ。
そんなことを思い出しながら、先生と晴美さんの遺影に相対し、心を込めて謝罪する。
謝ったところで許されるものではないが、おかげで自分の立場を思い出した。
――これ以上、茉莉花に近づかないで欲しいの。
――夫は、あなたのせいで殺されたのよ。
わかっています。
忘れたりしません。決して。
俺はあなたたちの娘をお預かりしているだけ。
いずれ必ず、お返しします。清い心と体のままで。
――君も、富田譲治が犯人だと思ってるのか?
その気持ちをより強固なものにしようと、あえて事件の話題を振ってみた。
事件について話し合うことで、自分の罪をより一層自分自身に思い知らせるために。
彼女も真剣に答えてくれて悪くない展開ではあったが……結論から言えば止めておけばよかったと思う。
――お父さん……お父さんっ……ごめんなさいぃっ、お父さっ……ぁあああっっ……!
自分を責めて泣く茉莉花――我慢は限界で、衝動的に彼女を抱きしめ、深く口づけてしまったのだ。
彼女の唇は、咥内は、想像以上に甘く、熱く、淫らで。
鋼のように鍛えたはずの理性を、容易く溶かした。
違う。
これはただ彼女を慰めるためのもの。
恋情じゃなく、親愛によるもの。
自分に言い聞かせながら、貪り続けた。
どれだけ言い繕っても仕方ないな、俺は自分の欲望に負けたのだ。
帰り際に、遺影をまともに見られなかったのは、言うまでもない。