Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
香坂は今頃、空港に着いただろうか。
大東物流副社長の名義で用意させたクルーザーが警察の目をくらますためのフェイクだということは、すでに承知してる。
本当の行先は、空港。
プライベートジェットで逃げるつもりなのだ。
けれど奴は知らない。
上手く逃げたつもりで、実は俺たちの用意した罠に自ら飛び込んだことに。
実はプライベートジェットで待っているのは、警察の別動隊。すでに全員入れ替わっているのだ。
お前が締めるのは、シートベルトじゃなく、手錠というわけ。
それと前後して、警察から発表がある。
富田の事件についてだ。
警察内部の協力者から、防犯カメラの分析結果が出たとすでに連絡があった。
これで、事件は解決に向けて大きく動きだす。
富田が隠し持っていた香坂とのやり取りを録音した音声データも、警察に提出済みだしな。
香坂は、富田譲治殺害の容疑で逮捕されることになるだろう。
15年前の事件についての自慢話も録音に入っているから、上手くいけば先生の無念も多少は晴れるかもしれない。
佐久間さんには可哀そうだと思うが、あいつが自分も含めて何股かけていたか知ったら、そんな考えは吹っ飛ぶだろう。
どうか早く忘れて、乗り越えてほしい。そう祈るばかりだ。
突然――
身体がふっと軽くなった。
視界が次第に白く染まり始める。
その先の光が、次第に大きく強くなっていく。
さぁ、そろそろ走馬灯も尽き、最期の時がくるようだ。
長いようで、あっという間の30年だった。
茉莉花、君に会えてよかった。
野良犬のように街をさまよっていた俺が、君に恋をして、生きる意味を知った。
生きる喜びを知った。すべて、君のおかげだ。
ありがとう。
遠くから君の幸せを祈ってる。
俺のことは忘れてくれていい。
どうか、どうか、いつまでも笑顔で――……
「クロードさんっ!? クロードさん、わかりますか!? 茉莉花です! ここにいます、わかりますか!? あの、誰か! 誰か来てください、クロードさんが目を開けたんです!! 意識が戻ったんです! すぐにドクターを呼んで!!」