Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
21. ハッピーエンド クロードside
驚いたことに、俺はまだ生きていた。
1週間ほど昏睡状態でかなり危なかったそうだが、奇跡的に一命をとりとめた。いち早く適切に処置できたことが奏功したらしい。
意識を取り戻してからは加速度的に回復してきて、1か月が過ぎた今では、病室内を自力で歩けるようになった。
寝たきりでなまった筋力を取り戻すべくプロを雇い、少しずつリハビリも始めているし、パソコンを持ち込んで徐々に仕事復帰も進めている。
すべては順調だ。
順調すぎるくらい順調で、そのせいで今俺はちょっと困って――
コンコン
控え目なノックが聞こえ、頬を緩めた俺はオーバーテーブル上のパソコン画面から視線を上げた。
「はい」
「クロードさん、お昼ご飯お持ちしましたよ」
「あぁ、ありがとう」
ワゴンを押して入って来た茉莉花は、俺の方を見るなり可愛く頬を膨らませる。
「ダメだって言ったのに、また仕事してる!」
「ちょっとメールの確認をしてただけだ」
「退院まではしっかり休むこと。約束していただけないならパソコン隠しちゃいますよ?」
腰に手をあて、ぷりぷりと怒る茉莉花。
あぁこの世のものとは思えないほど可愛い。
「はいはい、茉莉花ナースは厳しいな」
「当たり前です。クロードさんのためですから!」
俺が倒れてからずっと、茉莉花は泊まり込みで――VIPルームだからスペースはたっぷりある――俺に付き添ってくれていたらしい。
意識が戻ったら戻ったで、片時もそばを離れない勢いで、甲斐甲斐しく世話をやいてくれる。
それこそ、食事を俺に手ずから食べさせようとしてくれたり、入浴の介助までしてくれようとするから……いやもちろん、ありがたいし嬉しいんだが、最近はちょっと困っていたりする。
身体が動かない時ならよかった。
ただ今みたいに多少は動けるようになると、身体の機能も回復してくるわけで……。
下半身へ集まりそうになる熱に気づかれないよう、そっとベッド上で足の位置を変え、オーバーテーブルへお盆を乗せてくれる彼女へ「ありがとう」と笑顔を向けた。