Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
シャワーを浴びてラフなハイネックとデニムの上からエプロンをつけると、すっぴんのままキッチンへ飛び込む。
ええと、ロールパンがあるから、それと野菜スープと目玉焼き、あとはフルーツでスムージー作って……そんな感じでいいかな。
普段ならピザトーストとかクロックムッシュとか、パンにもひと手間加えるけど、今日は時短ってことで。
ワークトップに黒大理石を使ったブラックベースのアイランドキッチンは、見た目がクールなだけでなく、機能性もバッチリ。
最初は大きすぎて戸惑っていた私だったけど、今ではすっかりお気に入りだ。
あまり音を立てないように注意しつつ(広いから、絶対に聞こえないと思うけど)、お湯を沸かし、野菜を手早く切っていく。
スープを煮込んでいる間に、冷蔵庫にあるフルーツをチェックしておこう。
豆乳もあったはずだから、一緒に入れて……
そんなことを考えながら冷蔵庫へ手を伸ばしたところで、ガチャッとダイニングのドアの開閉音。
ちょっと予想より早かったけど、これくらいならそれほど待たせることもないはず。
安堵の笑みを、私はそのまま後ろへ向けた。
「おはようございます、クロードさん。もうちょっとしたらできま――あれ?」
ハテナマークが頭の中にぽんぽんと浮かぶ。
相変わらず何を着てもサマになる美貌の旦那様だけれど、ニットの上にダウンジャケットまで羽織って……どう見てもそれは出かける直前、という恰好だったから。
「お出かけ、ですか?」
「あぁ、日曜は朝から接待ゴルフに……って、言ってあったよな?」
怪訝そうに眉を寄せられて、ハッとする。
確かに、数日前そんな話をされたような……
「すすすみませんっすっかり忘れてました!」
そうだ、思い出した。
朝ご飯は移動の車の中で食べるからいらないって、言われたんだ。
「いや、こっちこそすまない。灯りがついてたからもしかしてと思ったら……昨夜ちゃんと確認しておくべきだったな」
ぐつぐつと音を立てる鍋を反対側から覗き込んで、謝ってくれるクロードさん。
忘れていた私が悪いのに……あぁもうバカバカ!
また妻としてのスコアが減点されてしまったじゃない。
「大丈夫です! これは私のお昼ご飯にしますし」
情けない思いをひた隠して、なんとか笑顔をぐいっと持ち上げた、ら。
思ったより近くに彼の整った顔があって、ビクッと肩が跳ねた。
どうして男の人なのに、こんなに肌が綺麗なのっ。
自分がすっぴんであることを思い出して、居たたまれない気持ちでジリジリしていると、伸びてきた指先が私の前髪をかき上げた。
「……顔色がよくないな。よく眠れなかったのか?」
す、するどい。
「あ、あはは。ちょっと飲みすぎちゃったみたいですね。二日酔いです。クロードさんの方こそ大丈夫ですか? あの後も遅くまでお仕事してたんでしょう?」
探るような視線を直視できず、思わず泳がせてしまった。
なおも彼はジッと私を見ていたようだったけれど、特に何も言及されることなく、「あぁ、俺は平気だ」とおもむろにその気配が離れていく。
「今日はゆっくりするといい」
「……はい、そうします」