Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「あぁバカだ、大馬鹿だよ! いいか、彼女がどういう人生を生きるのか、決めるのは彼女自身だ。お前も含めて、外野がどうこう決められることじゃない。過去だのなんだの言い訳して、彼女自身の気持ちを確かめもしないで終わりにするなんて、結局玉砕するのが怖いだけじゃないか。一度くらい自分の気持ち全部ぶつけてみろ。このまま別れたら、一生後悔するぞ。僕に言えるのはそれだけだ」
一息に言ってからくるりと踵を返した藤堂は、「なんで僕が」「なんでこんな役」「くそっ」……とかなんとか、ブツブツぼやきながら、部屋を出ていく。
バタンッ
勢いよく閉まったドアを、思わず苛立ちとともに睨みつけてしまった。
なんなんだ、一体。
俺たちのことなんて何も知らないくせに。
ぽんぽん、勝手なことばっかり言いやがって。
俺がどれほど悩んで苦しんで……
スプリングの効いたベッドマットへ拳を落とし、荒れ狂う感情を抑えようと努めた。
しかし、やがて――静けさの中で徐々に冷静さが戻ってくると、藤堂の言葉一つ一つを頭の中で反芻している自分がいた。
「どういう人生を生きるのか、決めるのは彼女自身……か」
――お前も含めて、外野がどうこう決められることじゃない。
悔しいが、藤堂の言う通りかもしれない。
離婚前提だと、それが彼女の幸せだと、俺は勝手に決めつけてなかっただろうか。
誰と一緒に過ごす未来が幸せか、それを決められるのは彼女しかいないのに。
俺自身にも、先生や晴美さんにも、それを決める権利はない。
……なんてことだ。
日頃部下に、「思い込みを疑え」と散々言っている俺なのに。
まさに今、思い込みに囚われているじゃないか。
……ならば今俺にできることは……ただ、この想いを彼女に伝えることだけだ。
愛していると。
離婚したくない。
本物の夫婦に、愛し合う夫婦になりたいと。
1度くらい、素直に伝えてみようか。
玉砕するかもしれないが、今のこの身体なら、理性が壊れてもまだ彼女に無茶なことはできないだろう。
自虐を込めて苦笑した俺は、そのまましばらく、窓の外の青空を飽くことなく見上げていた。