Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
コンコン
強めのノックに俺はハッと物思いから覚め、「はい、どうぞ」と返事を返した。
茉莉花の叩き方じゃないな、誰だろう?
今日は客が多い日だ、と何気なくドアへ視線をやり――車椅子で入って来たその人に、俺はギョッと目を見開いた。
<総帥!>
広東語を口の中からひねり出しつつベッドから降りようとすると、彼は痩せた頬に鷹揚な笑みを刻んだ。
<あぁそのままでいい。体調は悪くないようだな>
<は、はい。ご心配をおかけしました。こんな格好で申し訳ありません>
まさか総帥自らお忍びでこんなところまで来るなんて。
事前に知っていれば、せめてパジャマから着替えておいたものを。
恨めしい目を車椅子を押すユキへと向ける。
彼女は気づいているのかいないのか、呑気に「あらぁ元気そうじゃない」とか笑っている。くそっ。
<気にするな。突然来たわしが悪い。たまたま急に時間ができたのでな。お前と今後のことを話し合おうと思ったのだ>
<今後のこと、ですか?>
<クロードよ、わしの後継者になる気はあるか?>