Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
そこまで考えた俺は、ふとあることを思い出して顔を上げた。
<本当に、私でよろしいのですか? あなたは、彼を後継者にするつもりなのだと思っていました>
総帥が目をかけている男がいることは、グループ内部では割と知られた話だ。
一部では恋愛関係にあるのでは、と邪推する声すらあるほど。
俺とは水と油のように合わないが、なぜか血のつながっている俺よりもずっと総帥に似ている、あの男……。
<ライアンのこと?>
聞いてきたユキにそうだと頷く。
総帥は俺の言葉を予想していたのか、苦笑いして肩をすくめた。
<あやつの可能性は、まだ未知数だ。化けるかもしれんし、化けぬかもしれん。そんな博打を打つよりは、本来あるべき形に戻す方が自然だろう。つまりお前を兄の子と認め、次期総帥として発表するということだな。お前の実力についてはすでに周知されているし、誰も異議など唱えまい>
その暁には、宇航のものであった莫大な財産や世界各地のリゾートホテル、カジノの経営権もお前のものになると言われたが、俺は何も答えることができなかった。
総帥は困惑するこちらの気持ちを理解しているのか、小さく何度か頷いた。
<じっくり考えればいい、と言いたいところだが、際限なく待ってやるわけにはいかない。わしも余計な騒動は引き起こしたくないのでな。待ってやれるのは……そうだな、李翠蘭の死去までだ>
李翠蘭。俺の、祖母にあたる女性か。
<体調を崩して入院してらっしゃるとか>
<そうだ。すでに病状はかなり悪い。もってあと2か月ほど、というところだそうだ。お前が孫だと名乗りをあげれば、泣いて喜ぶだろうよ>
<引き受ければいいじゃない。茉莉花ちゃんなら、総帥夫人として立派にやっていけると思うわ>
お節介な一言に、苦い笑いが頬に上った。
もちろん、茉莉花ならできるだろう。
俺たちの関係が、その頃まで続いていれば、だが。
そして俺自身も、総帥の仕事ができない、とは思わない。
できると思う。
ただ……
逡巡した後、俺は視線を上げ、口を開いた。