Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

ハッと瞠目する瞳に、俺が映っていた。
暴君と恐れられた俺じゃなく、幸せそうに微笑む一人の男である俺が。

「う、そ……お父さんの事件があったから、クロードさんはそれで――」
「先生の死は関係ない。俺はずっと、初めて会った時からずっと、君だけを愛してきた。俺の方こそ、ずっと君は藤堂のことが好きなんだと思ってた」

「ま、学くんっ!? まさか、違いますよっ? ほんとにただの幼馴染でっ――ン」

ちゅ、と唇を軽く重ね、言葉を封じる。
彼女の口から藤堂の名前が出ることに、まだ拒否反応があるらしい。

「ん、んん、じゃあ……離婚は、しない?」

バードキスの合間に、小さな声で確認してくる茉莉花。
あぁ可愛すぎる。

「もちろんだ。君と、本物の夫婦になりたい。この先もずっとずっと、一緒にいたい。シンガポールへ、ついて来てくれるか?」

俺が言い終わるなり、茉莉花は震える口元を両手で覆い、嗚咽を堪えつつこくこく何度も頷いた。
「ぃ、はいっ……よろしく、おねがいしますっ!」

涙に濡れた頬へ口づけ、そっともう一度、腕の中へ閉じ込める。

あぁ信じられない。
まさか、こんな奇跡が起きるなんて。

あの時死ななくて、本当によかった。

満ち足りた幸福を噛みしめながら、俺の方もほとんど泣きそうになっていることに気づいて、若干焦る。

そんな自分を誤魔化そうと、彼女の耳元へ唇を寄せた。

「本物の夫婦って意味、わかってるだろうな? 俺の愛は相当重いからな。覚悟しておけよ?」

揶揄うように囁けば、彼女はほんのりその白い頬を朱に染め――

「嬉しいです」
上目遣いで俺を見上げて、ふにゃっと笑み崩れる。

あぁくそっ降参だ。
彼女には適わない。

俺は早々に白旗を上げ、愛しい妻の唇へ情熱的なキスを落としたのだった。


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