Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「夕食も先方と一緒に食べてくるから、用意しなくていい」
「わかりました」
ゴルフバックを担いだクロードさんを玄関ドアまで見送り、「いってらっしゃい」と手を振る。
「あぁ、行ってきます」
肩越しに振り返ったクロードさんの微笑に、胸がきゅんと鳴った。
あぁ好きだなぁって思う。
閉めたドアに背中を預けて、切ない吐息をつく。
経験が皆無とはいえ、私だって普通の女の子だ。
ドラマみたいな恋がしたい、とまでは言わないけど。
人並みに、そういうことにも興味はあるし。
好きな人には触れたい、触れてほしいって欲もある。
端的に言ってしまえば、もっとイチャイチャしたい。
どうしたら、彼に抱いてもらえるんだろう?
どうしたら、もっと愛してもらえるんだろう?
こんな恵まれた生活をさせてもらって、それは欲張りな願望なんだろうか。
重たい頭を振り振り、ドアから背中をべりっと剥がす。
とにかく自分一人分の朝ごはんを作ってしまおう、と室内へ戻りかけ――視界の隅を黒いものがかすめた。
「あれって……」
玄関の続きに伸びた、ウォークインタイプのシューズクローク。
その棚の一つに、黒のマフラーが無造作に置かれていることに気づいたのだ。
クロードさんのやつ、と慌てて手に取る。
戻ってくるかな、とも考えたけど、お迎えの車にそのまま乗ってしまったら気づかないかもしれない。
マフラーなしでコースに出るなんて、風邪を引きに来ましたって言ってるようなものじゃない?
追いかけよう、とすぐ決めた私は、マフラーを片手に大急ぎで部屋を飛び出した。