Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

一旦意識を取り戻したクロードさんは、持ち前の体力もあってぐんぐん回復し、ほどなく起き上がることまでできるようになった。

もちろんすごくすごく嬉しかった。
それは本当。

ただその一方で、彼が元気になって退院するということは、私たちの離婚の日も近づいてるっていうことなんだと思うと、手放しで喜べないひねくれた自分もいた。

このままずっと、彼を独占できたらと……

バカな茉莉花。
彼は、お父さんの死に責任を感じて、結婚してくれただけなのよ?

ちょっと距離が近づいたからって、自惚れちゃダメ。
カン違いしちゃダメなの。

もちろんずっと一緒にいたいなんて、ワガママ言っちゃいけない。
ちゃんと身を引かなきゃ。

いつ退院の日が決まってもいいように、笑ってさよならが言えるように。
頭の中でシミュレーションを散々繰り返した――のに。

全部無駄だった。


――退院したら、シンガポールへ行くことになった。

次期総帥の椅子は断わったものの、現総帥からお願いされてお手伝いすることになったとか。
青天の霹靂とも言うべき別れを予告されて、二の句が継げず、うつむいて衝撃を隠すのが精いっぱいだった。

覚悟はしていたはずなのに、おかしいくらい動揺してる自分がいた。

嫌だ、嫌だ、お願い行かないで。
離れたくない。
ずっと傍にいたい。

制御不能な想いがぐるぐると胸の内で渦巻き――何か言いかけた彼を遮るように、気づけば口が開いていた。

――つっ、ついて行っちゃダメですか?!

数秒前までそんな考え、さらさら抱いてなかったのに。
言葉が勝手に飛び出してきた。

< 380 / 402 >

この作品をシェア

pagetop