Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
あなたが結婚してくれたのは、お父さんの死に責任を感じているから。
それはわかってる。
だから離婚は仕方ないけど、あなたのことが好きな気持ちは変わらない。
妻じゃなくてもいいから、家政婦要員でいいから、せめてあなたの再婚が決まるまで傍に置いてくれないか……とかとか。
いろいろ叫んじゃったなぁ。
あぁこれはもうドン引き決定だ、さよなら決定だと覚悟した。
ところが。
――すまない、俺が言わなきゃいけなかったのに、君に言わせるなんて。
――愛してる、茉莉花。
お父さんの事件は関係ない、私自身を愛してるって。
甘い告白、そしてキス。
はぁあああああっ……今思い出しても顔が火照る。
あの時のクロードさんがカッコ良すぎて……
『姉ちゃん、また変な妄想してるだろ。顔がトケてる。キモイ』
ぼそっと聞こえた柊馬の声で我に返り、いつの間にか自分に向けていたスマホカメラを慌てて船の方へ向けた。
「キモイって言うなっ!」
ぶすっと返せば、おばあちゃんの朗らかな笑い声。
『まぁまぁ、どうせ旦那様のこと考えてたんでしょ。仕方ないよ、まーちゃんのこと庇って大けがして。あんな素敵な旦那様なんだもの』
「おばあちゃん、わかってくれる!?」
そうなの、クロードさんは最高なのよ!
『義兄さんが素敵なのはわかってるよ。姉ちゃんなんか、15年前と今回と、2回も命助けてもらって、マジ神だよな』
『本当ね。それなのに、昌行さんの死が自分のせいだなんて、私たちにまで頭下げて。ほんと、すごい人だよ』
この船旅の直前、私とクロードさんはおばあちゃんの家を訪れた。
そこで彼はおばあちゃんや柊馬(渡米まで同居して、退院したおばあちゃんを介助している)に、自分や実の両親、リーズグループとうちのお父さんを巡る因縁をすべて打ち明けた。
そして、お父さんの死の原因は自分にあると謝罪したのだ。
もちろん2人とも、彼を責めたりしなかった。
それより、クロードさんが15年前にも私を救ってくれた恩人であること、その因縁を乗り越えて私たちが結ばれたことに感激しきりで。
シンガポール行きを反対されることも覚悟していた、というクロードさんの心配を秒で吹き飛ばしたのだった。
『シンガポール、つったら世界中からキャリアウーマンとか美人留学生とか集まってそうじゃん。姉ちゃん、愛想つかされないようにがんばれよー?』
「わ、わかってるわよっ」
『何か足りない物があったら、すぐに連絡するんだよ?』
『ばあちゃん、足りなかったら現地調達すりゃいいんだよ。アマゾンの奥地に行くわけじゃねえんだから』
『そりゃそうだけど。出発まであまり時間もなかったし。クロードさんは少し前まで入院してたから、実質まーちゃんが一人で準備したようなもんだろう?』
「あはは、引っ越し準備はそれほど大変でもなかったよ。必要なものは向こうで揃えればいいって彼も言ってくれて。まぁでも、お世話になった人たちへのご挨拶とか、いろいろね……」
実際、この2か月はかなりバタバタしてた。
私の周囲の人たちにもいろんな変化があったし――