Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

知依ちゃんは犯罪者と付き合っていた事実にショックを受けて、仕事を辞め、なんと長野県へ移住してしまった。しばらくは人間と関わりたくない、と現在は牧場で働いている。

香ちゃんは、トミーが急遽帰国してしまい音信不通になったとかでしばらく抜け殻のように落ち込んでいた。最近ようやく「あたしには仕事しかない!」と立ち直ったみたいで、シンガポールにも遊びに行くよ、と約束してくれた。

そして学くんは、私たちより早く、数週間前に日本を発った。
国際NPOに医師として参加して、援助活動を行う予定なんだって。危ない場所でも行かなきゃいけないそうだから心配な気持ちはあるけれど、彼が決めたことだもんね。死の淵にいたクロードさんを生還させたその神がかった技術を、どうかより多くの人のために役立ててほしいと祈ってる。

そうそう、ユキさん――苗字より名前で呼んでくれと本人希望により――は何度もクロードさんのお見舞いに来てくれて、というか私に会いに来てくれて、シンガポール行きの相談にも乗ってくれて。病院の外で女子会するくらいすっかり仲良くなった。

その時彼女が紹介してくれたアメリカ人の親友・ナディアさんは、なんとクロードさんの大学時代のシェアメイト。
とってもゴージャスな美人だったので、こんな人がクロードさんの傍にいたのかってちょっと妬いてしまったら、実は男性だと聞いてびっくりしたなぁ。

――あと2人、シェアメイトはいるのよ。でもキング……、ええとクロードはあなたに一度も会わせたことないでしょ。どうしてかわかる?

ナディアさんに流暢な日本語で聞かれて、私は首を振った。
そう、どうして友達に紹介してくれないのかなって、ちょっと不満だったんだよね。

――警戒してるのよ。大学時代、クロードの部屋に飾ってあったあなたの写真をそのうちの一人のライアンってやつが見つけてね。可愛い可愛いってベタ褒めしたから。
――それ以来、クロードってばライアンを毛嫌いしてるわよね。もー茉莉花ちゃん愛されてるぅ!


どうやら残りの2人のシェアメイトはどちらもかなりの美形かつプレイボーイらしく、クロードさんは絶対私とは会わせないって宣言してるんだって。
私がクロードさん以外の男性に目移りするわけないのに……でもちょっと嬉しかったりして。えへへ。

ところで、“部屋に飾ってあった私の写真”て、何?
浮かんだ疑問には、ユキさんが答えてくれた。

なんでもクロードさんは渡米後、日本を離れている間も定期的に調査員を雇って私の身の安全を確認していてくれたそうで、その際に隠し撮りされたものがあったとか……

――ごめんね、茉莉花ちゃん。隠し撮りなんて気持ち悪いわよね。クロードのこと怒らないでやって?

ユキさんにフォローされたけど、例えば高岡課長にストーカーされた時のような嫌悪感は全く湧かなかった。
だって、全部私のためだって、ちゃんとわかってるから。

そうやってずっと、私のことを見守ってくれてたんだよね。
15年前から、変わらずずっと――……


「茉莉花、ここにいたのか」

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