Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
その日の午後は散歩がてらちょっと足を伸ばして、大型ショッピングモールへ。
タワマンの中にもスーパーはあるとはいえ、庶民の私にはちょっと敷居が高いため、極力周辺のお店を開拓するようにしてるのだ。
車の運転ができないから、限界はあるけれど。
「えっと、食料品はこれでOKか。ちょっとだけ雑誌見て行こうかな」
マイバックを下げつつ、書店があるフロアまでエスカレーターで上がっていく。
日曜日のショッピングモールは、家族連れで大賑わいだ。
いいな、楽しそう。
いつか、あんな風にクロードさんと一緒に買い物できたら……。
前に一度、さりげなく誘ったことがあるけど、「ネットで注文すればいい。運ぶ手間も省けるぞ。割高? 金額なんて気にしなくていいって言っただろう?」ってバッサリだったもんね。それ以来、誘えなくなっちゃった。
「ねーママーぼくこれやりたい!」
「あたしもやりたいーお願いーねーいいでしょー?」
幼稚園くらいかな。
カプセルトイコーナーの前でおねだりしてる子どもの姿に、頬が緩む。
あーもう、どうして子どもって、立ってるだけでこんなに可愛いんだろ。
私がママになったら、際限なくガチャガチャやらせてあげちゃいそう。
「子ども、かぁ……」
口の中でつぶやいて、はぁとため息をつく。
今のままじゃ、出産なんて夢のまた夢。
セックスレスと直結してくる問題だけに、これもいろいろと悩ましい。
私の中では、結婚の後には当然妊娠、出産が続くものだと思ってた。
けど今の時代、産まない選択をするカップルだって当たり前に存在するんだもの。彼がそういう考えを持っていたって、全然不思議じゃない。
そのことを結婚前に相談しなかったのは失敗だった。
いろんなことを急ぎすぎたんだ。
やっぱり一度しっかり向き合って、聞いてみるべきなのかも。
そうしたら、否が応でも夫婦の性生活を意識するだろうし。
実は私の気持ちが整うのを待ってるとか、初夜を逃して以来いつ誘ったらいいかわからないとか、彼なりの理由を打ち明けてくれるかもしれない。
万が一彼が子どもを望まないなら、私だってそういう将来を真剣に考えなきゃ。
離婚はもちろんしたくない。
だから、お互い歩み寄る、みたいな感じで、話し合えたらいいな。
夫婦と言っても他人なんだし、口に出さなきゃ伝わらない。
まして私たちは、まだ結婚して数か月しか経ってない新米夫婦なんだから。
もっと努力しないと。
よし、と決意を声に出してつぶやいた私は、気分転換になりそうな雑誌を選ぼうとそちらへ進みかけ――ふと、その歩を止めた。