Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
レッスンの間中、ずっとひっかかっていたのはそこだ。
彼にお金を強請ったことはないし、アテにしてるつもりもない。
ただ、はたから見たらそういう風に見えるってこと。
会社、辞めない方がよかったのかな。
だって主婦の仕事なんて、誰にでもできる。
お金がある彼なら、家政婦を雇ったっていいんだもの。
私じゃなくたって……
「暗くならないの!」
勢いよくデコピンされて、「うぇ」って変な声出してのけぞっちゃった。
「旦那さんに選ばれたのはあの女じゃなくて、茉莉花なんだよ? もっと自信もたなくちゃ」
「う、ん……そうかもだけど。そもそもどうして自分が選ばれたのか、未だに不思議で」
視線を伏せる私を「もう!」と怒った顔が下から覗き込む。
「茉莉花は可愛いってば。顔も性格もね! うちの兄貴だって、茉莉花が結婚したって教えたら相当ショック受けてたんだからね?」
学くん?
「もしかして、もう日本に?」
「うん。帰って来た、2、3日前にね。あ、それで兄貴に頼まれたんだけど……」
「何?」
聞き返すと、「あー、えっと」とか、なぜか突然歯切れが悪くなった。
「どうしたの?」
「うん……実はさ、茉莉花の連絡先が知りたいって。食事に誘いたいって言ってて……マズいかな」
「どうして? 全然大丈夫だよ? 私も会いたい」
きょとん、と答えるなり、香ちゃんは盛大にずっこけた。
「あんたね、人妻だって自覚持ちなさいよ」