Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
山手線に乗り込み、向かった先は渋谷。
赤や緑、金や銀……カラフルなクリスマスデコレーションで彩られ、クリスマスソングがどこからともなく流れてくる街は、まるでテーマパークの中みたい。
歩道はどこもすごい混雑ぶりだ。
まぁこういう時って不思議と気にならないけどね。歩いてるだけで気分まで華やいでワクワクするからかな。
私たちは再開発で新しくできた商業ビルをいくつか冷やかしつつ、それぞれお目当てのものを購入。イタリアンレストランでクリスマススペシャルプレートのディナーを食べ終わるころには、周囲に感化されたのか、落ち込んでいた気分も随分上向きになっていた。
今度のクリスマスは、結婚してから初めて迎えるイベントだし。
思い出に残るような日にしたいなぁ。
「あたしはダメだ。ロマンチックなクリスマスなんて、一生縁なさそう」
「ホテルで働いてたら仕方ないよ。かき入れ時でしょ」
「んーまぁね。臨時に人を増やして対応してても手が回らなくって、毎年ひぃひぃ言うんだ」
「へぇ、そんなに忙しいんだね」
裏方の仕事をフロントスタッフが手伝うこともあると聞き、大変そうだなと思う反面、やりがいありそうって羨ましい思いもあったりして。
やっぱり私もまた働こうかな……
「ねぇ茉莉花、うちでバイトしない?」
「え、シェルリーズホテルで?」
「そうそう、短期でいいからさ。ダメかな、旦那様反対するかな」
「んーどうだろう……大丈夫って気はするけど……」
そんな感じで雑談しながら駅へ戻ろうと歩いていたら、急に香ちゃんが「あ」と声を上げた。
「知依からラインだ。『今日どうだった?』って。返事するからちょっと止まっていい?」
「うん、わかった」
人を避けて、歩道の端へ一緒に移動する。
スマホへ返事を入力する香ちゃんを待ちながら、私はガードレールによりかかってぼんやりと白い息を吐いた。
クリスマスプレゼント、気に入ってくれるかなクロードさん。
なんでも持ってる人だから、選ぶのは本当に大変で。
結局無難な手袋にしちゃったけど、よかったかなぁ。
頭の中でぐるぐる考えつつ、手に提げた袋へ目を落とした、時だった。
「……ん?」
ふいに、奇妙な感覚が襲う。
誰かにじっと見られているような……視線を感じた気がしたのだ。