Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
顔を上げてキョロキョロ周囲を確認するが、特段変わった様子はない。
さっきまでと同じく、浮かれた人たちがイルミネーションに群がってスマホを向けているだけ。
「気のせい、だったのかな」
まぁ、こんなにたくさん人がいるんだし、たまたまこっちを向くことだってあるよね。
自分を納得させてから、最後にもう一度視線をぐるっと巡らせる。
「え」、と声がこぼれた。
数m先で、黒のSUVが信号待ちしてたのだ。
マットなボディが強烈な印象を残す、外国製。
あの存在感、クロードさんの車に似ているな、と思ったら、似てるどころじゃない。運転席に乗ってるの、クロードさんだ!
すごい、こんな偶然があるなんて。
ふふ。
渋谷にいましたね、って後で教えてあげようっと。
びっくりするかな。
いっそのこと今メッセージを……いやいや、運転中に邪魔しちゃいけないよね。
スマホに伸ばしかけた手を止め、もう一度彼へと視線を戻し――すっと、自分の顔から笑みが消えるのがわかった。
彼の隣、助手席に、女性が座っていたからだ。
速水さんじゃない。知らない人。
たぶん黒髪で、ボブっぽい感じ。
年はアラサーってとこだろうか。
つまり、クロードさんと同い年くらい。
2人は笑っているようにも見えて、リラックスしているよう。
一体誰?
今朝彼は『友人に会う』って言ってたから、単純に考えるならあの女性が『友人』ってことよね。
女性だなんて、知らなかった……
固まったまま、目まぐるしく考える。
全身へさらなる衝撃が走ったのは、次の瞬間だ。
クロードさんが彼女の方へと身を乗り出したのだ。
2人のシルエットが重なる。それはまるで、キスシーンのように見えた――……